『始まりの街』と『異常依頼』

yuno_acedia

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2020.05.03

「こ、ここが『parallel』の中?」


 俺は驚愕に目を見開き、辺り一帯を見回す。


 眼前に広がるのは、活気あふれる街並み。

 ただそれは、現実世界の街並みとは大きく違っていた。


 建物はコンクリートや、タイルのような現代的な材質ではなく、木材やレンガによって作られ、屋根は色とりどりに塗られていた。

 まさしくおとぎ話の中に登場する建物そのままであり、視界に写る風景が、読んで字のごとく『ファンタジー』していた。


 街を行き交う人の姿もまた現実とは異なっていた。

 盾と剣を装備し全身に鎧を着た男、革鎧に短剣持ちの盗賊シーフのような姿をしたポニーテールの女性。


 だが、俺の目を釘付けにしたのは、ケモミミ娘だ。

 リアルケモミミですよ、本物ですよ。

 猫、犬の王道はもちろんそれ以外にも多種多様な娘がいた。


 幾多の人間が憧れ、夢にまで見た世界がそこには広がっていた。こんなのモノを見たらいやがおうにも胸が躍る、特にタクのようなゲーマーは。


(確かにこれは『parallel《もう一つの世界》』だな) 


 俺は今にも走り出してしまいそうになる体を何とか抑え込み、正面のメインストリートに向けて歩みだそうとして、すぐに何かを思い出したかのように立ち止まる。


 そして回れ右をし、今俺がいる広場の中心に向かう。そこには大きな噴水があり、そのふちに俺は腰を下ろした。


(とりあえずメニューを開いて、と)


 俺は早速右下の視界端に写るメニュー欄をタップする。

 すると、高めの電子音と共に、目の前に一枚の半透明の板、メニューウィンドウが現れる。

 さらにそこからステータスの欄をタップ、再び電子音と共にウィンドウが移り変わり今の俺のステータスの数値と現在装備中のスキルが表示される。


 もちろん今始めたばかりなのでレベルは1、スキルも初期装備である【刀】スキルしかセットされていなかった。

 スキル装備欄には【刀】スキルがセットされているスロットを除けばあと四つスキルスロットがある。

 つまり現状のタクに装備できるスキルは合計五つということだ。


 タクは続けて装備欄を開く、そこには簡素な布の服を着ただけのタクが映し出されていた。


 うん、見るからに弱そうだ。


 装備欄は《武器》《頭》《上半身1》《上半身2》《腕》《腰》《下半身》《足》そして《アクセサリー》が二つの合計十個。

 そして現在俺が装備しているのは、《上半身1》と《下半身》と《足》の三か所だけであった。

 ちなみに《上半身1》が内側に着るもので2がその1の上に着るものであるらしい。


 俺はインベントリの中から、初期装備である刀を装備欄にドラッグ・アンド・ドロップする。

 すると腰の右側が淡く発光し、次の瞬間にはそれは刀の形に変っていた。


 俺は内心感動しつつ、腰から刀を外し体の前に持ってくる。そして、慎重に刀を鞘から抜く。刃の表面が日光を反射し鈍く光る。刀自体はオーソドックスな刃渡り六十センチの打ち刀。

 正直、刀の良しあしが分からない俺が見てもしょうがないのだが、戦う前に一度確認しておきたかったのだ。


 刀を腰に戻し、再び装備欄を見る。そして、今装備した刀を一度タップする。

 すると今度は刀の詳細のステータスがあらわれる。


【見習い刀・初心】

 ATK+5 耐久値100/100


 多分、普通の初心者装備の刀だよな。

 管理者であるガブから直接もらったからといって、とくには何か変わったところはないし。


 調べたかったことは全て調べ終わったので、とりあえず目的地に向かうことにした。


 視界の左上のミニマップを頼りに、俺は目的地に向かった。






 ■■■


 冒険者組合ギルド。


 それは冒険者の集う場所。

 暴言と血が飛び交う荒くれものの溜り場。

 日々、喧嘩が起こり、それを見た冒険者がはやし立て、どちらが勝つかに賭けが行われ、賭けが外れたからと言って隣人に殴りかかる。


 そんな理不尽と不倫里の舞台。






 と、言うのを思い浮かべていた、現在冒険者登録中のタク君でした。

 が、実際のところはそんなことは一切なく。


 ガキだからといって絡んでくる先輩冒険者も、身を案じて冒険者の危険性を一から説く受付嬢もいませんでした。


 いや、もちろん分かっていましたとも。

 傷ついてなどいませんよ。

 グスン・・・。




「あ、あの~?どうかなさいましたか?」


 そんな絶賛傷心中の俺に、眼前の少女は話しかけてきた。


 俺は少女を困らせてしまったことを少し悪く思いつつ、冒険者組合の受付嬢のルナさんに言葉を返す。


「いえ、大丈夫です。―――ちょっとしたカルチャーショックです」


「か、カルチャーショック?」


 彼女はそう言いながら顎に手を当て小首をかしげる。

 彼女の外形年齢はおそらくガブと同じくらいの十四、五ぐらいだと思われる、故にその動作は彼女の外形年齢とマッチしていて、俺の好みドストライクだった。

 おもわずほおが緩みそうになるのを必死に我慢する。

 ここでにやけて嫌われたら、今後ここの冒険者組合に来ずらくなるしな。


 彼女が可愛いのは分かり切っていたことだ。

 だが今はそれよりも気になったことがあった。

 今の一連のやり取りの最後に出た言葉―――『カルチャーショック』という言葉に彼女は、その単語自体を知らないような行動を示した。


 この会話の前に俺はいくつかの質問をし、そのことに彼女は一切の迷いなく答えた。

 俺はそれを見て感心した。

 まるでと喋っているように感じたからだ。

 視線の動き、声の抑揚、どれをとっても現実の人間と遜色がない。どこぞの青髪大天使さまとは天と地の差だ。


 そして俺は視線を彼女の顔から、少し上にずらす。そこには緑色の逆三角錐が浮いていた。

 事前説明でガブから聞いていたが、おそらくあれが《N《ノン》P《プレイヤー》C《キャラクター》》の証だろう。

 つまり彼女は人間じゃない。限りなく人間に近いAI、とかだろう。そんなものがいちゲームの、いちNPCに組み込まれていることに俺は本日何度目かになる驚きを覚えた。



 少し昔のRPGゲームのNPCは、話しかけても同じことしか喋らなかったが、時代は進んだな~。と、まだ花の高校生にも関わらず、老人のような思考になったのは黙っておこう。

 ただでさえ最近、『お前ってさ、たまに行動が年よりくさいよなww』って言われ始めてるのに、こんなこと考えてたなんてばれたら、本当に年寄り認定されてしまう。




「あ、気にしないでください。こっちの話です」


 俺はニコニコと笑みを浮かべながらルナに言葉を返す。


「は、はあ。やっぱり《渡界者シーカー》の方の言葉は難しいですね。あ、冒険者登録完了しました。こちら冒険者証ギルドカードになります」


「ありがとうございます」


 俺は席を立ち、受付カウンターからギルドの出口に向かう。


「お気をつけて、いってらっしゃいませ」


 後方からそんな声が聞こえてきたので、俺は左手を上げ軽く振った。




 (さて、次は装備を整えるか)


 タクの好奇心は既に次の場所に向けられていた。


 


 ギルドを出てメインストリートを歩くこと五分程。タクはメインストリートに面した一軒の建物に入る。


『エルテル』


 初心者の装備を多く扱う武器屋らしい。というのも、この店を知ったのは、ルナから聞いた情報であるため、本当かどうかは俺も知らない。


 まあ、流石に嘘を教えるような娘じゃないと思うし、大丈夫だと思うが・・・。


 俺は意を決して店に入る。


「うっ!」


 が、瞬間。入ったことを後悔した。

 別に内装が悪かった訳ではない。分りやすいように武器や装備ごとに展示されており、自分が探している物を見つけやすくする工夫がされていた。


 だが、これじゃあ物を見つける以前の問題だった。

 俺は頬が引きつりながら店を見回す。

 映る視界には

 人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人。

 人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人。

 人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人、人。


 という風に人間で埋め尽くされていた。


 何でこんなに人が?

 今も現在進行形で増え続ける人間を前にして俺は考え。

 そこで俺はその理由に思い当たった。


 そう、今日が『parallel』スタート初日だということに。


 店内にいる人間の大半は頭の上に逆三角錐が無いものばかり。つまりこの人間の大半は俺と同じ、プレイヤーであること。


 少し考えれば分かることだった。ゲーム開始日初日ならまずは装備を整えることが先決。

 そして、この店の情報は簡単に手に入る。 

 俺のようにギルド受付の人に聞いたり、町の人に聞いても手に入るだろう。


 つまり、何が言いたいかというと。

 完全に俺は出遅れた、ということだ。


 流石にこれでは、買い物ができようになるまで待ってたら日をまたぐ可能性があるな。

 俺は視界に映る現在の時間を確認する。


 午後十一時二十分


「クッ・・・!」


 俺はがっくりと肩を落とし、渋々店をあとにすることに決めた。






 再びメインストリートを歩き始めて五分。

 ルナから聞いた装備屋はあらかたプレイヤーで埋め尽くされ、とても買い物ができるような状況ではなかった。


「はあ~」


 タクの口から自然と溜息がこぼれる。


 こういう時はVRMMORPGというものは不便だと感じる。

 従来のMMORPGならある程度のプレイヤーの数を決め、それ以上のプレイヤーがあふれないように、チャンネルというものが存在していた。

 簡単に言うなら並列世界のようなものだ。同じ世界がいくつも存在し、そこに一定のプレイヤー以上が入らないように管理する。

 存在理由としては色々あるが、大きな理由としては資源の枯渇を防ぐためである。mobやアイテムは有限だ。リスポーンするからと言っても、それには時間がかかる、だから昔のゲームでは、資源を増やすのではなく、プレイヤーを減らした。

 いくつものチャンネルを作ることによって、一つのチャンネルの資源を枯渇させないようにしたのだ。


 だが、この『parallel』というゲームは違う。

 分割によって世界の資源の枯渇を防いだ既存のMMORPGを否定し、超巨大サーバーによって分割ではなく、一つの世界を拡張することによって資源を増やした。


 聞いた話だと今俺がいるこの第一層だけでも、埼玉県と東京都を足したくらいの面積があるらしい。


 だから単一サーバーに何十万ものプレイヤーを押し込むこともできた。

 だが、今はゲームが始まって三時間も経っていない。

 初期の町から外に出て、次の町にいるプレイヤーなど本物のゲーム廃人ぐらいだろう。



 いや、そんなことはどうでもいいんだ。

 それよりもこのまま装備をそろえられないと外に出られない。どんどん周りと離されてしまう。


 まずいな明日は普通に学校だ。

 少し仮眠をとるにしても、明日の朝の四時にはログアウトしたい。

 となると、一刻も早くスキルと装備を確保し、外でレベル上げ。ログアウト前までには次の町には行っておきたい


 そうしないと確実に部活仲間あいつらに笑われる。

 いや、流石に全員がそういう廃人ゲーマーではないが、大半は間違いなく俺の進み具合を聞いたら笑うだろう。

 流石にそれは仏の俺でもイラっと来る。




 現在のタクは再び中央広場の噴水に腰かけ今後の行動について考えていた。

 ここら辺は騒音がなく、静かで落ち着くから考えるのにはもってこいだろう。

 周りに人は少なく。ほとんど人の気配がしなかった。

 

 というか、全く人の気配がしなくなっていた。


 そこで俺は伏せていた顔を勢いよく上げた。



 そして違和感に気付く。周りに人が少ないどころか、一人も人がいないことに。

 プレイヤーだけではなく、NPCも一人も存在しない、中央広場は不気味なほど静かで。 

 噴水から出た、水の落ちる音だけがその場で聞こえる唯一の音だった。


 俺は静かに立ち上がり、辺りを注意深く見回す。

 鞘に右手を、柄に左手を乗せる。

 いつでも抜けるように準備しておく。

 抜刀どころか刀を振ったことすらない俺だが、スキルがガブの説明通りのモノなら問題ないだろう。


 全身の感覚神経が鋭くとがっていく。

 目はどんな些細な変化も見逃さぬように、鼻は自分以外の異なる臭気をとらえるために、肌は辺りの空気の流れに違和感がないかを感じとるために、


 耳はあらゆる音を拾うために。



「警戒中申し訳ない」


 声が聞こえた。男か、女か、班別のつかない声だった。


 瞬間。

 俺ははじかれた様に噴水から距離を取り、同時に刀を抜き、噴水の方へ振り返る、流れるような動作。刀を正眼に構える。


 左前方、円形の噴水の淵に佇む、何かがいた。


(・・・人間か?)


 そう考えるのも無理もなかった。

 体全体をすっぽりとローブ覆っており、顔すら見えず、ローブによって体の骨格すら分からない。




「―――なんの用だ?」


 できるだけ低い声で威圧するように言葉を紡ぐ。

 こんな変な奴に、デスペナにされるなんて勘弁だからな。

 これ以上攻略速度を落としたら本当に次の町に行けなくなる。


 俺は精一杯の虚勢を張り、相手を見据える。


「別に戦おうなどという訳じゃないですよ―――


 ローブはそこで一呼吸を置き、


 ―――ただ、貴方という人にしに来ただけです」


 そう、言い放った。


「―――交渉だと?」


 俺は内心の動揺が表に出ないようにポーカーフェイスを顔に張り付ける。だが、内心俺にはこのローブの発言の意図が全く掴めていなかった。


 交渉?俺と?

 何故?

 今の俺はここに来たばっかりだ。

 俺に交渉を求める理由が全く見当たらない。


 プレイヤーだからか?

 いや、それなら俺に交渉を求めるよりもこの街には、他にもプレイヤーはごまんといる。

 その中には俺よりも強いプレイヤーだっているだろう。というか大半が俺より強いだろう。


 じゃあ、コイツは―――――


「『何故俺に?』という顔をしてますね」


「っッツ!」


 どうやら眼前のローブには俺の内心が見破られているらしいな。心を読むスキルでももっているのだろうか。それとも顔に出ていたか。


 ダメだ、切り替えよう。こんなこと考えていてもしょうがない。

 俺は早々に強がるのを諦め、いつもの雰囲気に戻し、言葉を返す。


「はあ~、だってそうだろう。この街には他にも人はたくさんいる。その中から俺を選ぶ理由が無い」


「ええ、そうですね。貴方である必要性はない。まあ、あえて理由を挙げるなら―――」


「挙げるなら?」

 

「―――――暇そうだったからですかね」


「ああ、うん。否定はしない」


 まさかの理由だった。

 そんな理由で人を追い払って、俺と二人きりになったのか。


 今まで張りつめていた緊張の線が切れて、全身から力が抜けた。


 だが、まだ解けていない疑問があった。


「じゃあ、『交渉』ってのは何だ?」


「ああ、それはあなたに《依頼クエスト》を頼みたかったんですよ」


「―――クエスト?」


 ピコン


 俺が言葉を聞き返した瞬間、ローブの頭の上に緑色の逆三角形と、さらにその上に《?》マークが浮かび上がる。

 その意味は、クエストのスタート。

 どうやら突発性のクエストに引っかかってしまったらしい。

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