episode1(2)こんなに君を好きなやつが近くにいるんだけど

北條真百弥

北條真百弥

2020.05.22

 岸さんが誰を好きなのかを知るのが怖い。先輩って言ってたけど、バスケ部にそれらしい人はいなかったからOBか。バスケ部じゃないなら誰だ。いくら考えたところで、岸さんはそいつのことが好きなんだ。俺じゃない。どんなに虚しくても岸さんを好きなこと自体やめられない。

 岸さんも俺みたいにそいつのことを考えているんだろうか。もう告白したんだろうか、振られてもまだ好きなのかとか、こんなことばかり考えたくもないのにグルグルする。

 だけど俺は同じ委員会に入ったし、当番表の担当になって、岸さんとの接点は確実に増えた。岸さんが片想いなら、俺にもまだチャンスがあるはずだ。そう思い直して努力しようと決めた。その先輩を越えてやる。

 意気込んではみても、告白する勇気が出ないまま七月に入った。

 

 休み時間に教室を出ると、及川の後ろを小走りで付いていく岸さんを見かけた。気になって同じ方向へ進んでみたが、曲がり角で既に二人の姿は無かった。

 岸さんがどうして及川と・・・めちゃくちゃ気になる。

 もしかして、及川も岸さんのことが好きなのか?バスケ部同士だし。呼び出して告白?嫉妬心を渦巻かせながら廊下を流して歩いてみたけど、二人の姿は見当たらない。思い当たるのは屋上手前の踊り場だけど、あそこは近づくだけで誰かが側にいるのがわかるから無理だ。

 仕方なく教室に戻ったけど、気になってしようがない。気を紛らわせるため、無理矢理授業に集中することにした。

 

 岸さんと及川のことが気になったまま数日が過ぎた。岸さんとはしばらく接点がないままだ。たまに姿を見かけると、様子がおかしかった。クラスの子と笑い合ってても、無理に笑っているようにしか見えない。及川に何かされたのか、聞きたいけどそんなこと聞けない。それに露骨に一緒にならないように調整したから、当番は来週まで一緒にならない。焦ったい。

 少しでも話がしたくて頭を捻った結果、図書室に勉強しに行くことにした。今年は受験生だし、最適な答えだ。今まで思いつかなかったことが悔やまれる。

 

 図書室の引き戸を横にずらした瞬間、カウンターの中で並ぶ岸さんと及川が見えた。そうだ、今日はあの組み合わせで当番だった。ムカつく。何やら話しているみたいだが、声は聞こえない。今日は人も多いから小声で話しているんだろうけど、めちゃくちゃ気になる。

 

「おいかわー、ちょっと手伝って」

 先生が呼ぶのが聞こえ、及川は席を立った。今の状況で図書室の中に入るのは嫌だったけど、岸さんの前に貸出しを待つ人が二人ほどいたのでその隙に入り込み、カウンターから一番遠い席に座った。さっきのやり取りはなんだったのか。及川が岸さんに両手を合わせてた理由はなんだ?また頭の中で思考がグルグルする。

 

 いつまでも気にしてたらキリがないから、切り替えて話しかけに行くことにし、岸さんの前に立った。

「岸さん、おつかれー」

「赤堀くん、おつかれさま。今日は当番じゃないよね?どうしたの?」

「・・・今日は姉貴の友達が家に来るって言うから、今のうちに学校で宿題やっちゃおうと思って来てたんだ」

 自分のことを聞かれるとは思わず適当に答えてしまった。宿題は出たけど、簡単だったので授業中に終わらせたから本当は何もない。

「さっきさあ、及川と話が弾んでたみたいだけど面白いことでもあった?」

「えー、たいしたこと話してないよ」

「ふーん・・・そうなんだ」

 ホントに大したことないのか、それとも言えないことなのか。気になるけど、これ以上は聞き出せない。

「宿題は終わったの?」

「終わったよ。素因数分解、簡単だった」

「宿題って数学だったんだ。ってことはウチのクラスも出されるよね」

「今日出されなかったら明日だろうね。岸さん、数学苦手なの?」

「うん、数学が一番苦手」

 苦手なのがめちゃくちゃ顔に出てる。かわいい・・・。

「・・・教えようか?」

 自分の口から出た言葉に自分で驚いた。いきなり迷惑だったかな・・・。

「あ、いやなら・・・」

「ホントにいいの?」

 心臓が止まるかと思った。けど、止まるどころか爆音になった。冷静さを取り戻そうと思いっきり太腿を抓った。

「べ、別にいいよ。いつでも声かけてくれれば」

「宿題出たら声かけてもいい?」

「うん。もちろん」

 抓ったぐらいじゃ効かない。心臓の爆音を聞かれたらどうしようと、気が気じゃない。

「そうだ赤堀くん、夏休みの当番表ね、早めに作ったほうがいいと思う」

「いつまでに周知すればいい?」

「そうね・・・来週一緒の当番の日があるよね。そこでチェックするのはどうかな」

「わかった。じゃあ俺はそろそろ帰るよ」

「ありがとう、気をつけてね」

 ここに居続けたら心臓が保たないと思い、後ろ髪を引かれながらも早々に図書室を切り上げて廊下に出た。落ち着け、俺の心臓。

 

 大きく息を吐いて呼吸を整えた。玄関に向かって歩き始めると及川が段ボールを持ってこちらに歩いてきた。さっき先生に呼ばれてたやつか。

「おう赤堀、今帰り?」

「・・・まあな」

 せっかくいい気分だったのに、会いたくない男と会ってしまった。おまえ岸さんとなに話してたんだよって聞けないから、余計にムカつく。ついひと睨みして、足早に廊下を去った。我ながら大人気ないことをした。後で腹が痛かったとでも誤魔化そう。 

 

 それよりまだ心臓がバクバク言ってる。身体の熱が全部顔に行ってるような気さえする。慌ててトイレに駆け込んで鏡を見ると、案の定顔が真っ赤だった。この顔を及川に見られたと思うと余計に腹が立つ。

 

 岸さんに宿題を教えることになったなら、及川の件は水に流してやろうと決めた。

 

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