episode2(1)嘘のつけない彼の隠し事

北條真百弥

北條真百弥

2020.05.23

「横山のお兄さんもすっごいモテ伝説あるんだってね」

「お兄さんはね」

「お兄さんは、ってさあ」

 親友の朱里が呆れた顔のまま、目を細めてあたしを見てる。

「謙遜にならないってわかってるよねえ、穂波サン?」

「・・・ハイ」

 謙遜ではなく適当に流そうとした。都市伝説的なモテ話があるらしいお兄さんほどじゃないにしろ、あたしの彼、横山健吾はモテる。それなりに強いバスケ部で一年からレギュラーだし、背も高いし、入学した直後から騒がれてた。そんな健吾に好きだと言われた時は、罰ゲームかと思った。

 あの健吾に押されまくって、罰ゲームじゃないとわかって付き合うようになったなんて、今でも不思議で仕方がない。

「何でその話題?」

 朱里は腕組みしてひとしきり唸ったあと、あたしの両肩にガシッと手を置いた。

「・・・言おうか迷ったんだけど、横山と同中の子から聞いちゃったんだよね。横山がこの前、同中のバスケ部後輩の女子と二人でお茶してたって」

「健吾が後輩女子と?」

「あたしが穂波と仲いいの知ってる子でね、必要だったら教えてあげてって。穂波が直接聞いてたならいいんだけど、話しかけられないようなムードだったって言うから」

 心臓がバックバクに跳ね上がった。何それ聞いてない、浮気ってこと?

 あの健吾が?

「き、聞いてないけど、別に何とも思わないよ」

 ヤバい、声が上擦った。

「やっぱ空元気になったよね、ごめん。言わなきゃよかった」

 さすがは朱里、あたしの動揺を見抜いてる。朱里はきっとその話を聞いた後、あたしに話すかどうかめちゃくちゃ悩んだに違いない。ああ、心配させてる、どうしよう。何を言えば良いのかな。自分の顔色が鈍くなってるのがわかる。

「穂波、ごめんて。単に相談事なだけかも知れないしさ。変に広まらないうちに、誤解なら横山と穂波の間だけでもちゃんとした方がいいって思ったけど、おせっかいだね。マジでごめん」

「朱里のせいじゃないよ。今まで健吾に隠し事されたことないんだ。だから、本当だったらショック大きい」

 言葉にしたらもっと気持ちが重くなった。健吾がモテるのは入学直後から知ってる。付き合った当初、結構な数のやっかみもあった。でも、そんなのいつだって健吾がどうでもいい気分にさせてくれた。付き合いだしてもうすぐ一年になる。そろそろ飽きられちゃったのかな、あたし。

「ねえ今日、横山は部活なんだよね?待ってて一緒に帰りなよ。それまでは穂波と一緒にいるから。何なら横山に代わりに言うし」

「ありがとう。大丈夫、自分でちゃんと健吾に聞いてみる。朱里の言う通り、二人で解決しないとダメだと思うし。それより朱里、今日バイトじゃないの?」

「あーっ、そうだった・・・でもあたしのせいで凹ませたし責任感じる」

「朱里は自分のことも気にしてよ!気になる人いるって言ってたじゃん」

「そうだけど、穂波も気になるよ」

「ちゃんと結果報告するから、ね!」

 無理やり大丈夫だと言い張り、朱里を駅まで送った。健吾には部活が終わるまで待ってるとラインして、駅近くのコーヒーチェーンで待つことにした。窓際のカウンター席に座り、右横にカバンを置いた。ここが健吾の指定席だから。

 それにしても、落ち着かない・・・。

 

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