完結

神様とゆで卵

丸家れい 6話

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丸家れい

丸家れい

2020.06.01

 夏休み中ということもあって瑛真は連日瀬戸竜王に会いに自転車で海へ向かった。

 瑛真の住むアパートから隣の町にある瀬戸竜王と出会った海まで約三十分。昼間は海水浴客が多いと思われるため、夜だけ海に行っていた。カップルがいるときは、砂浜の西側にある岸壁近くの岩影に隠れて瀬戸竜王と会った。

 今日は砂浜に座って愛を語り合うカップルが三組。ライトアップされた瀬戸大橋が夜景に特別感を持たせてカップルたちの雰囲気作りに貢献している。


「食べるラー油とな。香ばしく辛みのある香辛料じゃな。いや、油と言うべきか」


 瀬戸竜王は、ラー油を乗せたゆで卵を頬張る。


「これはこのまま食べても美味じゃな」


 と、ラー油の小瓶を片手に持ち、指を突っ込んで食べていた。


「それ、あげるわ。また買ってこようか?」


「まことか!?」



たちまち、キラーンと瀬戸竜王の瞳がかすかな月明かりの中で強く輝いた。表情に同調して瀬戸竜王の声の調子が興奮している。

 昼間だったら瀬戸竜王の笑顔がちゃんと見られるのにな、と瑛真は少し残念に思う。


「ええよ。けど、海の中で食べれるん?」


 素朴な疑問だった。海水の中で液体のようなものを食べると波に流されてしまいそうだ。


「我は神であるからな。陸の上だろうが、海の中だろうが変わらぬ生活ができるのだ」


 まぁ海の方が居心地は好いが、と海の神様らしい発言を付け足した。

 お供え物を食べるときに間抜けに流されてしまう神様なんて憐れすぎて個人的には面白すぎるのだが、無用な妄想なようだ。

 瑛真が、コンビニで購入したチキン南蛮弁当を食べていると瀬戸竜王が不思議そうに口を開いた。


「瑛真は我に関して感動や畏れが薄いのう」


 瑛真は瀬戸竜王を見やり、軽く笑う。


「残念やけど、驚かんな」


「何故?」


「友達に妖怪がおるんよ」


 瀬戸竜王は物珍しそうに息をついた。


「ほう。化け狐か、化け狸か。それとも讃岐の国であれば天狗ということもあるか」


 瑛真は朗らかに笑う。


「天狗やで。可愛い天狗」


 瑛真が幼い頃、ボールで遊んでいると近所の大きな家の敷地内にボールが入ってしまった。垣根を潜っていくと自分と変わらない年頃の女の子が背中から黒い羽根を生やしていたのだ。


 幼かったせいもあるのか瑛真は怖いと思うこともなく、すごくわくわくした記憶がある。自分の知らない世界が開いた気がしたのだ。


 竜王は目を細めて誇らしげに笑う。


「日ノ本の国が他国と戦をしたとき、讃岐の国の狸や天狗も人間に化けて参戦したのだ。個の国を守ろうとな。瑛真の友人も一本筋の通った人間なのだろうな」


 瀬戸竜王の最高の褒め言葉に瑛真は強く頷いた。


「瀬戸さんってほんまにええ神様やな。お礼にあげるわ」


 友達のことを褒めてもらえることがこんなに気分がいいものだとは思わなかった。瑛真はタルタルソースのついたチキン南蛮を一切れ取って瀬戸竜王の口へぐりぐりと押し込んだ。瀬戸竜王の口の回りにタルタルソースが無邪気についている。こんな神様らしからぬ姿が瑛真の心を擽る。


「瑛真、わざとやっているだろう」


 そう、困惑気に言う瀬戸竜王だが美味しいチキン南蛮にそれ以上反論しなかった。子供のように頬を揺らしながらチキン南蛮を食べる瀬戸竜王を見ながら瑛真は寂しく息をつく。


 毎日のように瀬戸竜王の元に通っていたが今日で最後だ。


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